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    「さう、カワラケ、カワラケ云ひなさんな」

    「どうも遅くなりまして――」

    顎から後頭部にかけてと背部と二所を大きく繃帯でぐるぐる巻きにされた男は、やがて待合室へつれて行かれ、ごろりと転がされた。はじめからしまひまで一言も口を利かなかつた。

    「あゝ、さうか。ふうん」

    と、いきなり突きを喰はされた練吉は、神経的にさつと青ざめながら、反問した。

    「何だらう?」

    鬼倉は一瞬、相手を地着きのごろか何かと思つたらしい、一種の殺気をひらめかした。

    と、云つた。

    男は眼を閉ぢたまゝだつた。

    患者は満足してかへつて行つた。だが、房一は患者以上に満足していた。おれの云ひ方はあれでよかつたかな。もつと噛んでふくめるやうに話して聞かせるんだつたかなと、たつた今自分が云つたり、したことを、もう一度目の前に思ひ描きながら、房一は永い間廻転椅子の中に身をうづめていた。

    今の家は比較的街に近くて、この上もなく閑静だ。私の書斎の下は音無川で、一方は水田であり、自分の家の物音以外は殆ど音というものがない。その上、温泉もあるというから、非常にぬるい温泉だと仲介者も差配も家主も念には念を入れてダメを押したのを承知の上で越してきた。

    「何でもないぢやないかね、君から聞いたとほりだ。心配することはないと思ふな」

    徳次は笊を差出した。

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